生産技術の仕事を20年近くやってきた桑原と申します。
自動車部品メーカーで接着とシールの工程を12年、その後は実装装置メーカーで技術営業を6年やってきました。
今はフリーランスとして、中小の製造業さんの塗布工程の改善をお手伝いしています。
現場でよく相談されるのが「塗布がボトルネックになっている」という話です。
ただ、詳しく伺うと削る場所の見当が少しずれていることがあります。
ここでは塗布工程の時間をどう分解し、どの順番で手を付けるかを整理します。
タクトタイムは「塗布に何秒かかるか」ではない
日本IE協会のラインバランシングの解説では、目標サイクルタイムを「1日の実質稼働時間 ÷ その日の必要生産数」で求めるとされています。
タクトタイムとも呼ばれる、製品1個あたりに許される時間のことです。
つまりこの数字は、装置の速さではなく必要な生産数から逆算して決まります。
塗布がボトルネックなら、削るべきは工程内で一番長い要素であって、吐出速度とは限りません。
分解すると、吐出以外の時間が見えてくる
塗布工程を1サイクル分、要素ごとに書き出してみてください。
だいたいこう分かれます。
- ワークの位置決めと、ノズルの移動・昇降
- 吐出(実際に液が出ている時間)
- 吐出後の液切れ待ちと、糸引きの拭き取り
- 材料の補充、カートリッジや容器の交換
- 2液の場合はミキサや流路の洗浄、パージ
- 品種切り替え時の条件出しと試し打ち
私が見てきた範囲では、液が出ている時間より前後の方が長い現場の方が多いです。
それなのに「もっと速く吐出できる装置はないか」から検討が始まってしまう。
日本IE協会は改善の指針としてECRSの原則を挙げ、E(排除)、C(統合)、R(交換)、S(簡素化)の順に進めることが有効だとしています。
装置の入れ替えはRやSですから、その前になくせる時間を探す順番になります。
削る順番は「内段取り」から
同協会の段取りの解説では、機械やラインを停めて行う内段取りと、停めずに行う外段取りに分けたうえで、内段取りをできる限り外段取りへ移し、残った内段取りを短縮するのが改善の方向だとしています。
塗布工程で内段取りになりやすい時間と、その手当てを並べてみます。
| 削りたい時間 | よくある原因 | 手を付ける方向 |
|---|---|---|
| 洗浄・パージ | 混合液のポットライフ | 使い捨てミキサ、置換式ミキサ |
| 材料の補充 | タンクへの移し替え作業 | 材料缶から直接吸い上げ、カートリッジ式 |
| 拭き取り | ノズル先端の液ダレ | 吸い戻し機構、バルブ構造の見直し |
| 条件出し | 品種ごとの手動調整 | 設定のデジタル化、レシピ保存 |
2液の材料を扱っている現場なら、まず洗浄が効いていないか疑ってください。
混合した液はポットライフを過ぎると硬化するため、ラインを止めるほど洗浄の手間が増えます。
ナカリキッドコントロールの置換式ミキサは、洗浄剤を使わず主剤で混合液を押し出す方式で、置換は通常7〜10ショットとされています。
ただし吐出量や材料で変わるため、実機で確かめる前提の数字です。
装置を選び直すのは、その次
段取りを削ってもタクトに乗らないなら、そこで初めて装置の話になります。
このとき見るのは吐出速度よりも、計量方式と段取りのしやすさです。
キーエンスのディスペンサの解説では、吐出方式が空圧方式、容積計量式、非接触方式などに整理されています。
空圧方式は構造が簡単な分、液の粘度が温度で動けば吐出量も動きます。
朝と昼で塗布量が変わって調整に時間を取られているなら、容積計量式を検討する価値があります。
たとえば、容積計量方式を軸に揃えた2液型ディスペンサーの塗布装置ラインアップを見ると、洗浄が要らないスタティックミキサ対応の機種や、材料缶から直接吸い上げる機種が並んでいます。
吐出の速さではなく、段取りのどこを削れるかという目で眺めると選びやすいはずです。
相談に行く前に、数字を1つだけ用意する
メーカーに相談するなら、現状の1タクトが何秒かを内訳とあわせて持っていってください。
実機テストの申込書でも、材料の粘度や配合比率と並んで1タクトの秒数が聞かれます。
必要なのはストップウォッチ1つです。
まとめ
- タクトタイムは必要生産数から逆算した数字で、装置の速さとは別物
- 塗布工程は吐出以外の時間で埋まっていることが多いので、まず1サイクルを分解する
- ECRSの順に従い、装置の入れ替えより先に「なくせる時間」を探す
- 2液の現場では洗浄・材料補充といった内段取りが削りしろになりやすい
外から見ると1つの箱に見える工程ですが、開けて秒数を書き出すところまでやれば、次に何をすべきかは自然と決まってきます。
